2025/12/07

中途採用はゼロサムゲームか? 生成AIといっしょに考える

この記事は「DevHR Advent Calendar 2025」の8日目になります。

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3年ぶりにこのブログを書くことにした。
この3年の間、私は企業の勤め人として、採用(中途、新卒など)を中心に人事業務に取り組んでいた。
その経験を踏まえて、ひとつの問いについて考えたい。
問いは「中途採用はゼロサムゲームか?」というものだ。

なぜこんな問いを思いついたのかというと、中途の採用活動に明け暮れる中で、ある会社から別の会社に人を引っ張ってきているだけで、社会全体としてみたときに「正味の価値」を生んでいないのではないか?という疑問をふと抱いてしまった、とそういうことである。
この問いを正面から受け止めて、自分の仕事の「正味の価値」を考えることが少し難しく思ってしまった。

問いについて、私ひとりで考えるより生成AIの力を使ったほうが議論の質が確実に高くなると思うので、まずは私の問いを生成AIに投げた結果を共有したい。

ということで、GeminiとChatGPTにおなじ問いを投げた。以下の問いである。

中途採用はゼロサムゲームでしかないのではないのか問題についてどう思うか。つまり私の会社Aが、会社BにいるXさんを採用成功するとBはXさんの代わりを採用しなくてはならず、また別の会社の人を採用しようとする。そこで生まれているのは採用媒体やエージェントフィーに流れるお金だったり、採用の人件費だったりするが、なにか総和として価値は生まれているのか?という問い。

さて、生成AIの回答をガバッと貼られても読者の方の読む気を削ぐと思うので、2つの生成AIの回答をさらに端的にGeminiにまとめてもらったものだけを一旦ここに貼る(内容無編集の回答は参考までに、本記事の最後に貼ります)。 

【Gemini】  

両AIは、「局所的な人材の奪い合い(A社がB社から引き抜く瞬間)」だけを見るとゼロサムだが、「労働市場全体」で見ると、適材適所による生産性の向上と経済の新陳代謝という明確な価値を生んでおり、これは非ゼロサム(ポジティブサム)であると結論づけています。

ただし、採用にかかる手数料(摩擦コスト)が、その生み出される価値を上回ってしまう場合は、価値が生まれない問題があるという点も共通して指摘しています。

おおお…さすが2025年末にもなると、生成AIの進歩は恐ろしいもので、私が多分独力で3日考えても出せない納得感を3分で出力してしまった…。そうね、まぁ、これでいいと思う。問の答えは出ました、中途採用はちゃんと価値を生み出しているらしいので、私も自分の仕事に胸を張って、枕を高くして寝ます!

…となれるほど私は素直ではなかった。摩擦コストの問題は結構大きいなと思う。

これは単に、「エージェント経由の採用はフィーがかかる(たとえば35%とか40%とか)から、それをやめてリファラルやWantedly、YOUTRUSTなどの媒体費が抑えられる経路で採用しましょう!」ということではないと思う。採用というプロセスにかかるあらゆるコストを念頭に入れるべきではないか。

とはいいながら、これに対するきれいな回答は、残念ながら私は持ち合わせていない。し、それはAIに聞いた所でしょうがない。いろんなものが積み重なった、企業活動そして社会の経済活動全体に起因するものだから。そして、それは「悪い」と言い切れるものではないように思う。複雑性を棚上げして、善悪でなにか決められるほど世の中はすっきりとはできていない。

私は今日も採用媒体を開いて、自社の求める候補者像を念頭にたくさんの登録者データを眺めて、合うかもしれないと感じる人にスカウトを送る仕事を続けている。
それが社会に価値を生む仕事なのか、付随して発生するコストに飲み込まれる無駄な仕事なのか、この瞬間には分からない。
でもそれが前者である確率が高くなることを少しでも願って、考えて、仕事をするしかないのだろう。

※画像はNano Banana Proに適当に作ってもらいました。

(以下、参考)

【Geminiの回答】

中途採用がゼロサムゲームではないかという問いは、経済的視点と実務的視点の両面から非常に重要なテーマです。

結論から申し上げますと、単なる人の入れ替わりという点ではゼロサムですが、適材適所が進むことで社会全体の価値が増えるポジティブサムの側面が強くあります。ただし、ご指摘の通り、そこに介在するコスト(エージェントフィーなど)が高すぎる場合があるという問題は残ります。

以下に4つの視点で整理しました。

(1)適材適所による生産性の向上(アロケーションの最適化)

これが経済学における最大の正当化理由です。ある人材Xさんの能力は、どの環境にいるかで発揮されるパフォーマンスが変わります。

例えば、B社ではスキルと環境が合わず能力の60%しか発揮できていなかったXさんが、A社に移ることでカルチャーが合致し120%の力を発揮できるとします。この場合、社会全体の人員数は変わりませんが、アウトプットの総量は増加します。これを資源配分の最適化と呼びます。

(2)知の結合によるイノベーション

一社に長く留まる人材だけで組織を構成すると、思考が均質化しイノベーションが起きにくくなります。

XさんがB社で培ったノウハウや視点をA社に持ち込むことで、A社の既存社員と化学反応が起き、新しいアイデアや効率化が生まれます。また、斜陽産業から成長産業へ人材が移動することで、社会全体の経済成長が促されます。

(3)労働市場への圧力による待遇改善

他社へ移れるという選択肢(流動性)があること自体が、企業に対する健全な圧力になります。

企業は優秀な人を引き留めるために、待遇を良くしたり働きやすい環境を整えたりするインセンティブが働きます。もし流動性がゼロなら、企業は労働環境を改善する努力を怠り、結果として社会全体の活力が下がります。

(4)摩擦コストの問題(ご指摘の懸念点)

質問者様が懸念されている採用媒体費やエージェントフィーは、経済学では摩擦コスト(取引コスト)と呼ばれます。

現状の日本の採用ビジネスモデルでは、右から左へ人を流すだけで高額な手数料が発生するケースもあり、ここにお金が落ちすぎているという批判は妥当です。このコストが、移動によって生まれる価値(生産性向上分)を上回ってしまうと、まさに価値が生まれないマイナスサムになります。

[結論]移動の質が重要

中途採用市場が価値を生むか、単なるコストの浪費になるかは、移動の質にかかっています。

給与のためだけに移動し、スキルも上がらず、受け入れ企業でも成果が出ない「悪い移動」はゼロサムゲームです。一方で、移動によって個人のパフォーマンスが上がり、企業の課題が解決される「良い移動」であれば、コストを支払ってでも社会的な価値(総和の増加)は生まれていると言えます。

【ChatGPTの回答】

中途採用はゼロサムなのか?という問いへの考え方

中途採用は「会社同士の取り合い」という側面があるため、一見するとゼロサムに見える。しかし、労働市場全体ではゼロサムではなく、価値が増えるメカニズムも働いている。結論としては、局所的にはゼロサムだが、全体では非ゼロサムの部分が大きい。

1. なぜゼロサムに見えるのか(会社間の取り合い)

ある会社Aが、別の会社Bに所属しているXさんを採用した場合、B社はXさんの代わりを探さなければならない
差し引きすると「人材の奪い合い」になる
採用活動には求人媒体費やエージェント費などの摩擦コストが生じる
このプロセスだけを見ると、価値を生んでいないように見え、ゼロサム的に感じられる。

2. しかし労働市場全体では非ゼロサムになる理由がある

・マッチング効率が上がることで生産性が上がる

ある人が、いまの会社では10の成果しか出せなくても、別の会社では30の成果を出せるケースは普通にある。
適切な場所に人が移動することで、社会全体のアウトプットは増える。これは明確に非ゼロサム。

・成長産業に人が移動し、経済全体の成長につながる

レガシー産業からIT、再エネ、SaaSなど成長産業へ人材が流れることで、産業全体の新陳代謝が起きる。経済学的にも、労働移動はGDPの成長要因の一つとされている。

・転職を通じて個人のスキルが蓄積する

転職して得た知識や経験は次の会社でも持ち運ばれる。人的資本が積み上がっていくので、これは経済にとってプラス。

・採用市場に投じられるお金は、結果的に市場を効率化する

採用費用が無駄に見えても、HRテックの発展、人材紹介企業の雇用創出、採用効率の改善につながる。もちろん摩擦コストはあるが、それによって市場が高度化していく。

3. 企業がゼロサムを超えて価値を生む採用にする方法

・若手育成やポテンシャル採用

市場に存在しないスペックの人材を社内で育てることは、完全にプラスサム。

・既存社員のスキルアップ

採用で奪うのではなく、内部投資で生産性を上げる方向。

・外部とのナレッジ交換やコミュニティ参加

勉強会やOSS活動などを通じて、採用を単なる奪い合いではなく「価値の循環」に変える。

・採用を事業成長の戦略レバーとして設計する

ただの補充採用ではなく、事業成長率や顧客価値向上と結びつけた採用計画にすると、採用が価値創造につながる。

<結論>

中途採用は「局所的には取り合い」「全体としては価値を生みうる」という二層構造。
会社AがBから人材を引き抜く瞬間だけを見るとゼロサムだが、労働市場全体では、人材がもっと成果を出せる場所に移動したり、スキルを蓄積したり、結果として経済全体の生産性が上がっている。
採用競争があるからこそ、企業はより良い職場環境や成長機会を提供しようと努力する。
それもまた、非ゼロサムの価値を生む要因。

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