この記事は「シェアハウスのアレコレ アドベントカレンダー2019」の24日目です。
https://adventar.org/calendars/4341
今年の8月から、都内のとあるシェアハウス(*1)に住んでいる。
ぼくにとっては3年ぶりのシェアハウス住まい。2016年当時、「ギークハウス新丸子」に半年だけ住んでいた。そのあとは実家に戻った。
それから3年の月日が流れ、またちょっとシェアぐらしをしてみようと思った。
そして今4ヶ月が経とうとする今、気づいたことをまとめておきたい。
[1] 私物を共用空間に積極的に提供することで面白くなる
[2] テクノロジーの適切な導入はQOLを上げる
[3] 肝要なことは「受け入れやすい提案と導入」プロセス
以下に説明していきたい。
[1] 私物を共用空間に積極的に提供することで面白くなる
いまは個室に住んでいる。6畳。シングルベッドがある以外に大した家具はない。なので学習机を置けると思って、折りたたみ机を実家から持ってきた。
だが、あえて共用スペース、というか玄関はいってすぐのところに置いてみた。もちろんほかの住民たちに確認はとってから。
結果的に、ぼく以外にもたまに作業机として使う住民が出てきた。それを見て思ったのは、「自分のものを自分だけが使うよりも、共用にしたほうが面白いものもある」ということ。
PC、スマホみたいに「個人のデータと不可分な道具」は、セキュリティ、破損や紛失のリスクも考えるとシェアは難しいが、それ以外の「環境に設置される道具」は、どんどんシェアしてみていいのかもしれない。もしやっぱり違ったな、嫌だな、と思ったら自分の部屋/エリアに戻せばいいのだ。
[2] テクノロジーの適切な導入はQOLを上げる
もともとぼくが入居した時点では、玄関の鍵は住民1人に1本ずつ渡される形だった。
しかしあるとき、ぼくが帰宅したら鍵が開きっぱなしになっていた。
ここで選択肢が2つ出た。1つは、環境をそのままにして、ほかの住民に呼びかけをすること「ちゃんと出かけるときには鍵を掛けてください」と。
しかし、これはあまりイケてる選択肢とは思えなかった。慌てていたりすれば人は忘れてしまうもの。それは別に自分だって同じこと。人間が起こしてしまう可能性があるエラーに対して「エラーをなくせ」というのは、知恵の放棄であるし、愛がない。
そこで思いついたもう1つの選択肢は環境を変えて、鍵の掛け忘れをなくすこと。すなわち「スマートロックの導入をしよう」とほかの住民に提案すること。もちろんぼくはこちらを選んだ。
いくつかのスマートロックを比較した。Akerun、Qrio、などなど。価格や、アプリの利便性などを総合的に判断して、Sesame (*2)が一番良いと思ったので「Sesameは何が便利か、どんな問題が解決できるか」をわかりやすく他の住民たちに伝えて提案した。本当は対面で提案したほうが良いとは思ったのだが、うちの住民たちはあまり活動時間帯が揃っていないので、住民間のFacebookメッセンジャースレッドで行った。
「鍵が開きっぱなしになっていることの問題」と「スマートロック導入の金銭的コストならび学習コスト」を秤にかけて、皆スマートロック導入に賛成してくれた(というか正確には特に反対意見が出なかった)ので、導入。ちなみに、金銭的コストは本体が9,800円(キャンペーン価格)でWi-Fiモジュールが4,700円だったので合計14,500円也。これは共益費から出した。
実際にスマートロックの設置後は、ぼくが率先して、ほかの住民に使い方を丁寧に説明した。そうやって、この新しいテクノロジーを「使いやすいもの」と最初に感じてもらうことが大切だと思ったからだ。
そして、導入がなされ、少しずつ住民に浸透していくと、鍵まわりの状況は、以前に比べて劇的に便利になった。オートロックが設定できるので、鍵の掛け忘れは二度と起こらない。そして、ゲスト用の一時的なキーもアプリで発行できるため、住民の友人や家族が泊まりに来るときにも、鍵の受け渡しなどをする必要がなくなった。
結果的に、あきらかにQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が上がったと言える。
「鍵の掛け忘れ」という事態を、テクノロジーとサービスの力で圧倒的な利便性獲得の機会に変えることができた経験は、実にたのしかった。
[3] 肝要なことは「受け入れやすい提案と導入」プロセス
ほかにも、小さなことだけど、風呂のマットを普通の線維製のものから、珪藻土バスマット (*3)に変えようと提案して、実現したりした。
そうしたことを通じて学んだのは、共用空間に関わることに変化を持ち込む場合には重要なのは「受け入れやすい提案と導入」プロセスだということだ。
ぼく自身はテクノロジー大好きだし、生産性はとことん上げようぜ派で、そうしたテック導入が遅い組織にはかなり批判的である(なんならそういうところでは絶対に働かない)。しかし一方で自分自身が怠惰な自覚がある。なにより行動経済学者D.カーネマン(*4)の示した「人は合理で動くわけでなく感情で動く」真実と、認知科学者D.A.ノーマン(*5)の唱える「間違いが起こるなら悪いのは人ではなくデザインである」思想を愛している。ゆえに、自分だけで完結することでなく、社会(シェアハウスも小さな社会だ)に関わる変化には、ケースにもよるが「受け入れやすい提案と導入」が大事だと思っている。というか、この4ヶ月のシェアぐらしを通じてそれを実感したのだ。
もちろん、すべての人が提案を前向きに考えてくれるわけではない。
社会のあちこちでは、なんらかの悪い事態を良くするために様々な提案や交渉をおこなっている人々がたくさんいる。だが、おそらくはその提案者の側の問題ではなく、提案を受ける側の思考があまりに旧態然、固着していて変化を拒絶し続ける事例もたくさんあるだろう。そこに生じる膨大なエネルギーや金銭の無駄と、事態改善のための提案者たちの心的消耗を思うと悲しい。
それでも、提案者の行動がなくては、社会の変化を起きない。
その提案と導入のプロセスを、たとえば職務としていきなり困難な現場で行うことになると、あまりに辛いだろうなとぼくは思ってしまう。そう思った時に、たとえばシェアハウスのような小さく、また自由に選ぶことができる社会の中で、体験的に実施して、小さな失敗と成功体験を得ることは、それなりの意味があるのではと思うのだ。
*1 正確にはルームシェア扱いになるはずだが、便宜上シェアハウスと呼称する。なおルームシェアなので、明確な管理人は存在していないので、あらゆる意思決定は住民同士での合意に基づく。
*2 Sesameはこちら。鍵の形によって合う合わないがあるので、導入してみたい方もよく家の鍵の形状を確認してほしい。
https://amzn.to/2SokqFY
*3 珪藻土バスマットはこんなもの。興味あったらトライしてみてほしい。もうバスマットを洗濯することは二度となくなるのだ!
https://amzn.to/35WSVXG
*4 カーネマンの著書。行動経済学に関してその経緯から研究の状況までを第一人者の語りとして知ることができる珠玉の一冊(上下巻)。未読の方は一度読んで欲しい。
https://amzn.to/2ENQpqT
*5 ノーマンの著書。認知科学者であるノーマンが、研究を通じて明らかにしていったデザインの"前提となる観点"とでも言うべきものを知ることができる。ぜひ読んでほしい。
https://amzn.to/39a0EE3
https://adventar.org/calendars/4341
今年の8月から、都内のとあるシェアハウス(*1)に住んでいる。
ぼくにとっては3年ぶりのシェアハウス住まい。2016年当時、「ギークハウス新丸子」に半年だけ住んでいた。そのあとは実家に戻った。
それから3年の月日が流れ、またちょっとシェアぐらしをしてみようと思った。
そして今4ヶ月が経とうとする今、気づいたことをまとめておきたい。
[1] 私物を共用空間に積極的に提供することで面白くなる
[2] テクノロジーの適切な導入はQOLを上げる
[3] 肝要なことは「受け入れやすい提案と導入」プロセス
以下に説明していきたい。
[1] 私物を共用空間に積極的に提供することで面白くなる
いまは個室に住んでいる。6畳。シングルベッドがある以外に大した家具はない。なので学習机を置けると思って、折りたたみ机を実家から持ってきた。
だが、あえて共用スペース、というか玄関はいってすぐのところに置いてみた。もちろんほかの住民たちに確認はとってから。
PC、スマホみたいに「個人のデータと不可分な道具」は、セキュリティ、破損や紛失のリスクも考えるとシェアは難しいが、それ以外の「環境に設置される道具」は、どんどんシェアしてみていいのかもしれない。もしやっぱり違ったな、嫌だな、と思ったら自分の部屋/エリアに戻せばいいのだ。
[2] テクノロジーの適切な導入はQOLを上げる
もともとぼくが入居した時点では、玄関の鍵は住民1人に1本ずつ渡される形だった。
しかしあるとき、ぼくが帰宅したら鍵が開きっぱなしになっていた。
ここで選択肢が2つ出た。1つは、環境をそのままにして、ほかの住民に呼びかけをすること「ちゃんと出かけるときには鍵を掛けてください」と。
しかし、これはあまりイケてる選択肢とは思えなかった。慌てていたりすれば人は忘れてしまうもの。それは別に自分だって同じこと。人間が起こしてしまう可能性があるエラーに対して「エラーをなくせ」というのは、知恵の放棄であるし、愛がない。
そこで思いついたもう1つの選択肢は環境を変えて、鍵の掛け忘れをなくすこと。すなわち「スマートロックの導入をしよう」とほかの住民に提案すること。もちろんぼくはこちらを選んだ。
いくつかのスマートロックを比較した。Akerun、Qrio、などなど。価格や、アプリの利便性などを総合的に判断して、Sesame (*2)が一番良いと思ったので「Sesameは何が便利か、どんな問題が解決できるか」をわかりやすく他の住民たちに伝えて提案した。本当は対面で提案したほうが良いとは思ったのだが、うちの住民たちはあまり活動時間帯が揃っていないので、住民間のFacebookメッセンジャースレッドで行った。
「鍵が開きっぱなしになっていることの問題」と「スマートロック導入の金銭的コストならび学習コスト」を秤にかけて、皆スマートロック導入に賛成してくれた(というか正確には特に反対意見が出なかった)ので、導入。ちなみに、金銭的コストは本体が9,800円(キャンペーン価格)でWi-Fiモジュールが4,700円だったので合計14,500円也。これは共益費から出した。
実際にスマートロックの設置後は、ぼくが率先して、ほかの住民に使い方を丁寧に説明した。そうやって、この新しいテクノロジーを「使いやすいもの」と最初に感じてもらうことが大切だと思ったからだ。
そして、導入がなされ、少しずつ住民に浸透していくと、鍵まわりの状況は、以前に比べて劇的に便利になった。オートロックが設定できるので、鍵の掛け忘れは二度と起こらない。そして、ゲスト用の一時的なキーもアプリで発行できるため、住民の友人や家族が泊まりに来るときにも、鍵の受け渡しなどをする必要がなくなった。
結果的に、あきらかにQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が上がったと言える。
「鍵の掛け忘れ」という事態を、テクノロジーとサービスの力で圧倒的な利便性獲得の機会に変えることができた経験は、実にたのしかった。
取り付けたSesame
ほかにも、小さなことだけど、風呂のマットを普通の線維製のものから、珪藻土バスマット (*3)に変えようと提案して、実現したりした。
そうしたことを通じて学んだのは、共用空間に関わることに変化を持ち込む場合には重要なのは「受け入れやすい提案と導入」プロセスだということだ。
ぼく自身はテクノロジー大好きだし、生産性はとことん上げようぜ派で、そうしたテック導入が遅い組織にはかなり批判的である(なんならそういうところでは絶対に働かない)。しかし一方で自分自身が怠惰な自覚がある。なにより行動経済学者D.カーネマン(*4)の示した「人は合理で動くわけでなく感情で動く」真実と、認知科学者D.A.ノーマン(*5)の唱える「間違いが起こるなら悪いのは人ではなくデザインである」思想を愛している。ゆえに、自分だけで完結することでなく、社会(シェアハウスも小さな社会だ)に関わる変化には、ケースにもよるが「受け入れやすい提案と導入」が大事だと思っている。というか、この4ヶ月のシェアぐらしを通じてそれを実感したのだ。
もちろん、すべての人が提案を前向きに考えてくれるわけではない。
社会のあちこちでは、なんらかの悪い事態を良くするために様々な提案や交渉をおこなっている人々がたくさんいる。だが、おそらくはその提案者の側の問題ではなく、提案を受ける側の思考があまりに旧態然、固着していて変化を拒絶し続ける事例もたくさんあるだろう。そこに生じる膨大なエネルギーや金銭の無駄と、事態改善のための提案者たちの心的消耗を思うと悲しい。
それでも、提案者の行動がなくては、社会の変化を起きない。
その提案と導入のプロセスを、たとえば職務としていきなり困難な現場で行うことになると、あまりに辛いだろうなとぼくは思ってしまう。そう思った時に、たとえばシェアハウスのような小さく、また自由に選ぶことができる社会の中で、体験的に実施して、小さな失敗と成功体験を得ることは、それなりの意味があるのではと思うのだ。
*1 正確にはルームシェア扱いになるはずだが、便宜上シェアハウスと呼称する。なおルームシェアなので、明確な管理人は存在していないので、あらゆる意思決定は住民同士での合意に基づく。
*2 Sesameはこちら。鍵の形によって合う合わないがあるので、導入してみたい方もよく家の鍵の形状を確認してほしい。
https://amzn.to/2SokqFY
*3 珪藻土バスマットはこんなもの。興味あったらトライしてみてほしい。もうバスマットを洗濯することは二度となくなるのだ!
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*4 カーネマンの著書。行動経済学に関してその経緯から研究の状況までを第一人者の語りとして知ることができる珠玉の一冊(上下巻)。未読の方は一度読んで欲しい。
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*5 ノーマンの著書。認知科学者であるノーマンが、研究を通じて明らかにしていったデザインの"前提となる観点"とでも言うべきものを知ることができる。ぜひ読んでほしい。
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